海外の関係会社8拠点のITインフラ基盤にSAP Business ByDesignを導入。共通テンプレートの横展開により、業務の標準化、データの一元管理、ガバナンス強化を実現。
グローバルで工場の自動化分野を牽引するファナック。基幹システムの老朽化にともない、海外の関係会社8拠点(※1 以下、海外拠点)のITインフラ基盤としてクラウド型ERP「SAP Business ByDesign」の導入を決定した。フィールドサービス、会計、財務などのオールインワンに加え、機能とコストのバランスが採用のポイントとなった。パートナーには、技術力、業務への理解、グローバルプロジェクトを推進するコンサルティング力を重視しワンアイルコンサルティングを選定。パートナーシップのもと、技術的課題、言葉の壁などを乗り越え、テンプレートを活用し海外拠点への展開を進める。経理の月次レポート作成が半日から10分に短縮など業務効率化とともに、経営状況の可視化に向けた基盤を構築できた。
※1:タイ、マレーシア、フィリピン、オセアニア、南アフリカ、インドネシア、ベトナム、シンガポール
導入の背景
海外拠点を担う基幹システムのEOLを機会にITインフラ基盤としてクラウド型ERPを導入
1956年、民間において日本初のNC(数値制御装置)の開発に成功したファナック。コンピュータにより工作機械を自動的に動かすCNC(コンピュータ数値制御装置)は、FA(Factory Automation、工場の自動化)に欠かせない。同社は、CNCなどの基本技術を応用し、自動車、電機、食品、薬品などさまざまな分野の自動化に貢献するロボットを開発。CNC・製造業向けロボットでは世界一のシェアを誇る。グローバルで高い評価を得ている、技術、研究開発に磨きをかけ、製造業の未来を切り開いている。
工場を支える製品を提供している同社は、世界に270以上のサービス拠点を設置。高度な保守サービスと、使用し続ける限り保守する「生涯保守」を基本とする「サービスファースト」を実践し、お客様に大きな安心と信頼をもたらしている。
2020年、海外サービスのITインフラを担う基幹システム「PRISM」のEOL(製品のライフサイクル終了)が迫っていた。従来の課題と、次期基幹システムの方向性について、ファナック IT本部 業務システム部長 山田 朗 氏は話す。
「PRISMは、20年前にフルスクラッチでつくり改修を繰り返してきました。EOLをきっかけに、レガシーシステムのマイグレーションを行う際に3つの課題がありました。1つめは、オンプレミスからクラウドへのシフト。本社IT部門のリソースを有効活用するために、ハードウェアやソフトウェアの運用管理の負荷軽減が必要でした。2つめは、業務の標準化。各国から寄せられるさまざまな要望への対応に多くの工数がかかっていました。3つめは、ITインフラ基盤の統合。PRISMはフィールドサービスに特化しており、会計は別パッケージ、販売はExcelなど個別最適化し、全体を管理するERPとしては機能不足でした」
2020年6月、同社はPRISMが抱えていた課題を解決し、海外拠点を支えるITインフラ基盤を構築するべくクラウド型ERPの選定に入った。
採用のポイント
オールインワン、機能とコストのバランスがポイントに
パートナー選定ではグローバルプロジェクトを推進するコンサルティング力を重視
PRISM更新プロジェクトは、ERPパッケージを検討するべく20社以上を調査。機能や特徴などから3社に絞り込み、プレゼンテーションを依頼した。高評価を得たのが、クラウド型ERP「SAP Business ByDesign」を提案した、SAP SaaS ERPのプロフェッショナル集団「ワンアイルコンサルティング」だ。ファナック IT本部 業務システム部 四課主任 江口 博光 氏は当時を振り返る。
「PRISMの更新ですから、フィールドサービス機能は不可欠でした。また会計、販売などERP機能がオールインワンで提供される点も重視しました。さらに、対象となる海外拠点の規模に対して、機能とコストのバランスがとれていることも重要な要素となりました。SAP Business ByDesignは当社の要件を満たしていました」
同社は、海外拠点に導入するためグローバルサポートを必要条件とした。ワンアイルコンサルティングは、グローバルプロジェクトに精通したコンサルタントが海外拠点のERP導入をサポートする。「日本企業の海外現地法人へのクラウド型ERP導入実績もポイントとなりました」(山田 朗 氏)
PRISMの更新ですから、フィールドサービス機能は不可欠でした。また会計、販売などERP機能がオールインワンで提供される点も重視しました。さらに、対象となる海外拠点の規模に対して、機能とコストのバランスがとれていることも重要な要素となりました。SAP Business ByDesignは当社の要件を満たしていました。
江口 博光 様
ファナック株式会社
IT本部 業務システム部 四課主任
導入のプロセス
テンプレートを活用し海外拠点に横展開
言語の壁、国ごとに異なるルールなど1つ1つ解決
2021年8月、同社は総合的観点から、SAP Business ByDesignを提案したワンアイルコンサルティングを採用。海外拠点の中で規模の大きいタイにパイロット導入する前提で、パッケージ標準機能と業務とのFIT&GAPを行うアセスメントを実施。同社とワンアイルコンサルティングは、半年間をかけてPRISMの業務マニュアルや画面と、SAP Business ByDesignの機能を比較検討した。その結果、8割以上がフィットできると判断した。
2022年4月に、タイの導入プロジェクトをスタート。そこには、テンプレートを作成し横展開する狙いもあった。導入プロセスでは、生涯保守により部品点数が40万点以上に及ぶことから、データ移行に手間と時間を要した。ファナック IT本部 業務システム部 藤江 柊輔 氏は苦労したポイントについて話す。「価格表のデータも膨大でした。PRISMからデータを抽出してテキストファイルにするのですが、データ品質の問題でSAP Business ByDesignで利用できないものもありました。試行錯誤しながらデータをクレンジングし、一度では処理できないテキストファイルなどを分割し、すべて移行するのに1カ月を要しました」
会計データの移行も調整が必要だったと、ファナック 経理本部 経理部 企画税務課 課長 小松 敬宏 氏は説明する。「既存データは小数点5桁、SAP Business ByDesignは小数点2桁、使えない文字もあるなど、データの手直しが発生しました。また為替レートに関して、取引は月末レート、売上は当日のレートなど国によってルールが異なるため、それを1つのシステムで実現するためには運用も含めて工夫が必要でした」
PRISMからデータを抽出してテキストファイルにするのですが、データ品質の問題でSAP Business ByDesignで利用できないものもありました。試行錯誤しながらデータをクレンジングし、一度では処理できないテキストファイルなどを分割し、すべて移行するのに1カ月を要しました。
藤江 柊輔 様
ファナック株式会社
IT本部 業務システム部 四課
タイ導入のPM(プロジェクトマネジメント)を担当したOneAyle Consulting Malaysia Sdn. Bhd. Manager Chia Chin Yeeは、ファナックの特性について言及する。「例えば、補修品交換の場合、古い部品を必ず引き取って再生可能なものは修理して再利用します。特殊な業務フローを、SAP Business ByDesignで適用するために工夫しました。また、国ごとに個別の価格表となっており、計算式も違います。それをSAP Business ByDesignで実現するのは技術的なチャレンジでした」
2023年2月、タイのSAP Business ByDesignによる新基幹システムはリリースされた。しかし、運用を始めると幾つかの課題が浮彫りになった。「業務分析フェーズでFIT&GAPを終え、必要な対応を完了していた認識であったが、現場での実務運用において拾い切れていない機能の不足や仕様の食い違いが少なからず発覚し、業務を停滞させる結果となりました。また、現場ユーザーに対する新基幹システムの教育が十分にできておらず、機能は揃っていても、正しい使い方がわからないために間違った操作やそれによるデータ不整合を引き起こし、業務運用に支障となるケースも見受けられました。これに対応するため、IT本部のスタッフがワンアイルコンサルティングのメンバーと一緒に現地に赴き、ユーザーと顏を突き合わせながら、機能の説明と、現場仕事との調整、標準化への理解について時間をかけて対応しました。また不足や食い違う機能の洗い出しを再度入念に行った後、ワンアイルコンサルティングの迅速な開発対応のご協力を得て、現場機能が徐々に改善に向かいました。」(山田 朗 氏)
特殊な業務フローを、SAP Business ByDesignで適用するために工夫しました。また、国ごとに個別の価格表となっており、計算式も違います。それをSAP Business ByDesignで実現するのは技術的なチャレンジでした。
Chin Yee Chia
OneAyle Consulting
採用するべきは、マレーシアの業務プロセスでした。シンプルで業務標準化に適していたのです。マレーシアのやり方を採用し、タイのテンプレートを改修しながら導入を進めることでテンプレートの完成度を高めていきました。
Jun Hamaura
OneAyle Consulting
2023年10月、次のマレーシアへの導入は、タイの新基幹システムが抱えていた課題解決にもつながった。理由について、ワンアイルコンサルティング 取締役 濱浦 惇はこう説明する。「タイの業務フローをベースに作成していたテンプレートは、マレーシアで使えない部分が多いことがわかりました。しかし、採用するべきは、マレーシアの業務プロセスでした。シンプルで業務標準化に適していたのです。マレーシアのやり方を採用し、タイのテンプレートを改修しながら導入を進めることでテンプレートの完成度を高めていきました」
2024年6月、マレーシア拠点を担う新基幹システムが本稼働。現在、テンプレート横展開の試金石ともなる、フィリピン拠点への導入が進められている。「2024年9月に現地に行って、フィリピンのキーユーザーに対してトレーニングを行いました。キーユーザーには、マレーシアのトレーニングにも参加してもらっていたので、自分たちで予習、復習をしてくれていました。今後、IT本部のオンライン支援のもと、キーユーザーがエンドユーザーに教えるステップに入ります。トレーニングも含め導入ノウハウが蓄積されてきたと思います」と、ファナック IT本部 業務システム部 一課 山田 良美 氏は話す。
今後、IT本部のオンライン支援のもと、キーユーザーがエンドユーザーに教えるステップに入ります。トレーニングも含め導入ノウハウが蓄積されてきたと思います。
山田 良美 様
ファナック株式会社
IT本部 業務システム部 一課
導入効果と今後の展望
月次レポート作成時間が半日から10分に短縮
スピード感をもって残りの海外拠点へ展開
タイとマレーシアにSAP Business ByDesignを導入した効果はすでに表れている。オンプレミスからクラウドへとシフトしたことで、IT本部の運用負荷軽減が図れた。「業務効率化を実現するために、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)により自動化も進めています」と江口 氏は付け加える。また、本社経理部門による月次レポート作成時間も半日が10分に短縮。拠点からのデータ収集も手入力も不要となり、システムからデータをダウンロードし決算書の作成が可能だ。小 松 氏は、「ドキュメントフロー機能を使って取引単位まで会計データをドリルダウンすることで、内容を確認したい金額に対してすぐにどんな取引か確認できます」と話す。
ドキュメントフロー機能を使って取引単位まで会計データをドリルダウンすることで、内容を確認したい金額に対してすぐにどんな取引か確認できます。
小松 敬宏 様
ファナック株式会社
経理本部 経理部 企画税務課 課長
新基幹システムにより、サービス、販売、購買、経理など散在していたデータの一元管理を実現し、経営状況を可視化するための基盤を構築できた。ポイントは、データの整合性や品質の向上が図れたことだ。「SAP Business ByDesignはトランザクション(商取引におけるルール)規定が厳しく、正しいルートのみ処理できます。また従来、データの活用では海外拠点に依頼するケースもあったのですが、日本の本社で海外拠点にどのようなデータがあるのかを正確に把握できていない状態でした。今は必要な時に必要なデータを、品質管理部門や研究部門などにフィードバックできます。また、パッケージの標準に業務を合せることで、グローバルのガバナンス強化が図れました。さらに、追加開発を極力行わないことで、導入・更新時のコスト抑制も実現できました」(山田 朗 氏)
タイ、マレーシア拠点への導入で課題が出た時に無理難題もお願いしたのですが、『できない』とは言わず『できる方法』を提案してくれました。ワンアイルコンサルティングの支援があったからこそ、難関を乗り越えて軌道に乗せることができたと思っています。
山田 朗 様
ファナック株式会社
IT本部 業務システム部長
今回の海外拠点展開をやりきることができた要因として、山田 朗 氏はワンアイルコンサルティングを高く評価する。「ワンアイルコンサルティングのコンサルタントは技術、業務の知識や知見はもとより、取り組む姿勢がプロフェッショナルです。タイ、マレーシア拠点への導入で課題が出た時に無理難題もお願いしたのですが、『できない』とは言わず『できる方法』を提案してくれました。ワンアイルコンサルティングの支援があったからこそ、難関を乗り越えて軌道に乗せることができたと思っています」
ERP導入を成功に導くポイントについて、SAPジャパン パートナーサクセスサービス SAP Business ByDesign パートナーサクセスエグゼクティブ / カスタマーサクセスパートナー 菅 健雄 氏は話す。「企業の要望に応える製品と、それを活かすパートナーの選択が重要となります。プロジェクトは困難に直面するケースも多く、パートナーシップが求められるからです。SAPは、ローカライゼーションなどお客様の声を製品の開発に反映していきたいと思います」
企業の要望に応える製品と、それを活かすパートナーの選択が重要となります。プロジェクトは困難に直面するケースも多く、パートナーシップが求められるからです。
菅 健雄 様
SAPジャパン株式会社
SAP Business ByDesign
パートナーサクセスエグゼクティブ/
カスタマーサクセスパートナー
今後の展望について山田 朗 氏は話す。「残りの海外拠点への導入もスピード感をもって展開していきたいと思います。また、タブレットなどを使ってお客様先でのデータ活用による、サービス向上や効率化の実現もテーマの1つです。今後も、ワンアイルコンサルティングのメンバーと一緒にプロジェクトを進めていきたいと思っています。スタッフの増強も期待しています」
世界の製造現場に革新と安心を届けるファナック。ワンアイルコンサルティングは技術と人材を駆使し、同社海外事業の基盤を支えていく。
※記載されている情報は2024年10月現在のものです。
Key Takeaways
CHALLENGES
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EOLにともない、海外拠点を支える基幹システムを刷新したい
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クラウド型ERP導入においてグローバルサポートを受けたい
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海外拠点への横展開をスピーディかつスムーズに行いたい
RESULTS
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海外拠点のITインフラ基盤としてクラウド型ERPを導入。業務の標準化、データの一元管理、ガバナンスの強化を実現
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グローバルプロジェクトに精通したコンサルタントがサポート。拠点の従業員とコミュニケーションをとりながら課題の解決に貢献
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タイ、マレーシアの導入でテンプレートを完成させ、スムーズかつスピーディな横展開を実現